この記事でわかること:IBSは長期戦になりやすい病気ですが、体質と生活のクセを丁寧に整えることで、最初の1か月で大きな変化が出ることがあります。
「毎朝ロシアンルーレット」、そんな日々が続いていませんか
中学時代、テストのたびにお腹を壊していた人が、30代になっても通勤電車と会社の会議でトイレを心配し続けている。
過敏性腸症候群(IBS)では、こんなふうに長いお付き合いになってしまう方がめずらしくありません。
IBSは「すぐに完治する病気」ではなく、どちらかというと長期戦になりやすい病気です。
一方で、体質と生活のクセを丁寧に整えることで、最初の1か月で景色が変わることもあります。
今回は「IBSでもまず1か月でここまで変わることがある」ということをお伝えしたくて、ある30代男性の方の途中経過をご紹介します。
まだ治療は続いていますが、同じように通勤や会議でお困りの方の、ひとつの希望になればうれしいです。
中学から続いた「本番=お腹を壊すパターン」
今回の方は30代の男性会社員です。
中学生のころから、定期テストや受験のたびに強い腹痛と下痢に悩まされてきました。
「テストの前日は必ずお腹が痛くなる」
「試験中にトイレに行きたくなるのが怖い」。
そんな経験を繰り返すうちに、「人前」「抜けづらい場面」=「お腹が痛くなるところ」という、条件反射のようなパターンが刻み込まれていったようです。
社会人になってからも、このパターンはそのまま続きました。
朝の通勤電車、途中でトイレに行けない区間。
会社の長い会議、途中退席しづらい空気。
「お腹が痛くなったらどうしよう」
「トイレに行けなかったらどうしよう」。
この不安のせいで、朝の通勤は毎日が勝負。
会議の前日はよく眠れない。
そんな状態が、何年も続いていました。
病院・市販薬・自己対策、それでも残った「朝の不安」
もともと内科や消化器科には何度かかかっていて、検査で大きな異常がないことは確認済みでした。
整腸剤や腸の運動を整える薬を試したこともありますが、「まったく効かないわけではないけれど、決定打にはならない」という感覚だったそうです。
市販薬での自己対策も一通り経験済み。
それに加えて、早めに家を出て駅ごとにトイレの場所をチェックしておく、朝ごはんの時間や量に気をつける、といった工夫もご自身で続けておられました。
それでも、「今日は大丈夫だろうか」という不安は消えません。
一度”通勤電車で冷や汗をかきながらトイレに駆け込んだ経験”があると、脳と腸がその記憶をなかなか手放してくれないのが、IBSのつらいところです。
そんな中、「体質から整えていく方法があるなら試したい」と、漢方相談にいらっしゃいました。
初診で見えた「お腹だけではない」体質のクセ
初回のご相談では、まずこれまでの経過と生活背景をじっくりうかがいました。
- ・中学から続く「本番でお腹を壊すパターン」
- ・現在の仕事のストレス(責任の重いポジション、人前で話す機会が多い)
- ・朝の通勤前からすでに始まっている不安感
- ・平日と休日でお腹の調子がはっきり違うこと
- ・睡眠の質や食事のタイミング、冷えや汗のかき方
からだ全体の状態を、ひとつひとつ確認していきました。
お腹の症状としては、朝から午前中にかけての腹痛と軟便・下痢が中心で、午後から夜にかけては比較的落ち着いているタイプでした。
体質的には、
- 「緊張しやすく考えすぎる」
- 「もともと胃腸が強くない」
- 「冷えやすいが、ストレスが続くと熱っぽくもなる」
といった傾向が重なっていました。
IBSというと「腸の病気」のように聞こえますが、この方の場合は「脳(不安・緊張)と腸のつながり」「気の巡りと消化吸収の弱さ」の両方を整えていく必要があると判断しました。
この方の過敏性腸症候群(IBS)をどう見立てたか
ここからは少し専門的な話も交えながら、今回のケースの診立てをお伝えします。
同じような症状で悩んでいる方に、「自分のからだを理解するヒント」になればと思います。
西洋医学的には、「IBS(過敏性腸症候群)の下痢型〜混合型」に相当します。
検査では大きな異常がなく、ストレスや緊張をきっかけに腹痛と下痢が出やすいタイプです。
漢方医学的に考えると、ポイントは大きく三つありました。
① 「気」の流れが乱れやすい
長年のストレスと緊張の影響で、漢方でいう「気」(自律神経やストレス応答に関わる機能)の流れが慢性的に緊張した状態になっています。
② 「脾」が弱く、気と水分の巡りが乱れやすい
「脾」とは、漢方における胃腸の消化・吸収機能全般のことです。
気の流れの乱れがそのまま脾に影響を与える形になっており、気の巡りと水分のさばき方が乱れています。
③ 朝・本番前に「気」が一気に上りすぎる
交感神経が優位になりやすく、朝や緊張場面で腸の動きが過剰になるパターンです。
まとめると、「もともと繊細な胃腸に、長年のストレスと緊張が重なって、気と脾のバランスが崩れた状態」と見立てました。
漢方の方針:お腹だけでなく「気持ち」と「体質」に同時にアプローチ
この方の治療方針は、三本立てで考えました。
- 緊張や不安でお腹が急に動きすぎる流れをゆるめること
- 長年のストレスで弱っている「脾(胃腸)」を立て直すこと
- 冷えやすい体質をふまえてお腹まわりを温めること
この三つです。
「IBSだからこの漢方」という単純な選び方ではなく、
- 性格の傾向(緊張しやすい・考え込みやすい)
- 仕事の負荷(人前で話す機会が多い、責任感が強い)
- からだのサイン(冷え・汗のかき方・舌や脈の状態)
などを総合して、その方だけのパターンを組み立てています。
実際の処方はここでは具体名を出しませんが、イメージとしては、「お腹を守りながら、ストレスでキュッと固くなる部分をふわっとゆるめるもの」と「冷えや血行のケアで朝のお腹を温かく保つもの」を組み合わせた内容です。
「食事の工夫がすでにできていた」、だから漢方が素直に届いた
この方は、もともと食事にはかなり気をつかっておられました。
- 朝は食べすぎないようにしている
- 油っこいものや刺激物を控えている
- 外食が続くときはお腹に優しいメニューを選ぶ
そういった工夫を、すでにご自身で続けておられました。
そのため今回は、新たな食事制限を加えるのではなく
- 「今やっている良い工夫はそのまま続けてもらう」
- 「朝の時間帯に負担がかかりすぎないよう、タイミングと量だけ少し整える」
という程度にとどめました。
土台となる生活の工夫がすでに出来上がっていたからこそ、漢方の力がからだに届きやすかったとも言えます。
同じ漢方を飲んだとしても、からだの準備ができている人ほど、変化は早く出やすくなります。
1か月後:「毎朝ロシアンルーレット」が「まあ大丈夫だろう」に変わった
漢方と生活の調整を始めてから1か月。
中学時代から続いてきた過敏性腸症候群の症状なので、「まずは少し楽になればいい」くらいの気持ちで経過を見ていました。
ところが、ご本人の口から出てきた言葉は、予想以上のものでした。
- 「この1か月、通勤電車で冷や汗をかくレベルの腹痛は一度もありませんでした」
- 「駅に着いてすぐトイレに駆け込む日がなくなりました」
- 「会議前も、”絶対ヤバい”じゃなくて”まあ大丈夫だろう”くらいの気持ちでいられる日が増えました」
便の状態も変化しました。
ほぼ毎朝のように下痢・軟便だったのが「普通の便」の日がはっきり増え、トイレの回数も1日3〜4回から1〜2回程度に落ち着いてきました。
もちろん、「まったく不安がない」とまでは言えません。
それでも、「毎朝ロシアンルーレットをしているような感じだった」のが、「今日は多分大丈夫」という感覚に変わってきたことは、この方にとってとても大きな一歩です。
まだ「卒業」ではないけれど、1か月でここまで変わることがある
「じゃあ1か月で治るの?」と思われたかもしれませんが、正確にはそうではありません。
過敏性腸症候群(IBS)は、
- ・ストレスのかかり方
- ・仕事の状況
- ・生活リズムの乱れ
などで、良くなったり悪くなったりを繰り返しやすい病気です。
この方も、治療はまだ続いています。
今後は、仕事が立て込んだとき、季節の変わり目、プライベートで大きなイベントがあるときなど、「どうやってお腹を守っていくか」を一緒に考えながら、多少の波があっても自分で立て直せる状態を目指していきます。
それでも、「中学から続いていた”本番前=お腹を壊すパターン”が、たった1か月でここまで揺らいだ」という事実は、とても心強い材料です。
IBSで通勤や会議が怖い方へ
長年IBSで悩んでいると、「もう性格の問題だから仕方ない」「お腹が弱い家系だからあきらめている」と、自分を責める方向に向かいがちです。
でも、体質や生活のクセ、ストレスとの付き合い方を丁寧に見直していくことで、まず1か月で「毎朝の恐怖」がかなり軽くなり、数か月から1年かけて「波はあっても自分でコントロールできる」状態になっていく。
そんな変化は、決してめずらしいことではありません。
通勤電車を普通に乗り過ごせる朝、会議室で内容に集中できる時間。
そんな当たり前の日常が、少しずつ戻ってくる可能性があります。
「過敏性腸症候群(IBS)でも、まず1か月でここまで変わることがある」。
その可能性を知っておくだけで、明日の通勤電車や会議室が、少し違って見えてくるのではないかと思います。
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