家族を支える人が倒れないために…。がんばりすぎたお母さまの漢方症例

娘を支えるうちに、自分が限界に

「娘のことが心配で、夜もよく眠れなくて……でも、娘の前ではそんな顔を見せられないんです」

漢方相談の場でこういった言葉をお聞きすることは、決して珍しくありません。
今回ご紹介するのは、当店に通ってくださっている患者さんのお母さまのお話です。
家族を支えながら、自分の心と体の限界に気づきにくい方にこそ、届いてほしい症例です。

娘さんが漢方治療を始めてから、お母さまは毎回の来店に付き添ってくださっていました。
遠方からの通いではなかったものの、娘さんの体調に一喜一憂しながら、日々心配を積み重ねていた方です。

「自分のことは後回し」という姿勢が自然と身についており、娘のことは親戚にも話しにくく、ご家族にも弱音を吐けずにいました。
そうして、気がつかないうちに心と体の限界に近づいていたのです。

家族の病気を支えている方のなかには、「私がしっかりしていないと」という思いを強く抱えていらっしゃる方が多くいます。
応援しながら、心配しながら、それでも前を向き続けるうちに、いつの間にか自分自身がすり減ってしまう。
このお母さまの経過は、そういった方のお気持ちに、きっと重なる部分があるのではないかと思います。

朝の憂鬱、吐き気、胃弱…「心配しすぎ」のサイン

お母さまの症状が出始めたのは、付き添いを続けて日々が経ってからのことでした。

とくに気になっていたのが、朝の憂鬱感です。
目が覚めると重たい気持ちが胸の底にあって、体を起こすことさえ億劫に感じる。
日中は何とか動けても、朝だけがつらい、という状態でした。

それに加えて、吐き気や胃の弱さも出てきていました。
食欲が安定せず、食べたいのに食べられない、あるいは食べると気持ち悪くなる、という日が続いていたとのこと。
血圧も不安定で、何となく「体の調子がつかめない」という不安感もありました。

実は、このお母さまには以前にも似たような経験がありました。
約8年前、強いストレスを感じる出来事があったとき、喉の痛みや違和感が長期間にわたって続いていたのです。
当時も当店で漢方相談をお受けし、約1年ほどかけてその症状が落ち着いていきました。
そのときから8年。
今度は、別の形でストレスが体に現れていたわけです。

心と体はつながっています。
心配が続く、我慢が続く、そういった状態が長引くと、それが消化器や自律神経のはたらきに影響し、身体的な症状として現れることは珍しくありません。
「気の持ちよう」の問題ではなく、心身は本当に連動しているのです。

漢方から見た「がんばりすぎのお母さま」のからだ

漢方では、心配や思い悩みが続くことで「気」の流れが滞りやすくなると考えます。

「気」とは、体を動かすエネルギーのようなものです。
これがうまく巡らなくなると、朝の憂鬱感や、胃の不調、胸のつかえ感、動悸、血圧の不安定などが起きやすくなります。
気の滞りは、現代医学でいう自律神経のアンバランスな状態と重なる部分が多く、「なんとなく体の調子がつかめない」というふわっとした不調として現れることが多いのも特徴です。

このお母さまの場合、もうひとつ注目していたのが、首・肩こりの強さと頚椎まわりの緊張でした。
精神的なストレスは、ほぼ必ずといっていいほど、首から肩、頚椎のあたりに緊張をもたらします。
そしてこの緊張が、頭部の血流を妨げ、朝の憂鬱感や倦怠感を悪化させる一因にもなっていました。

こういった状態の方は、決して珍しくありません。
むしろ、真面目で優しい方、家族想いな方ほど、こうなりやすい傾向があります。
「自分よりも誰かのために」という姿勢が、知らずしらずのうちに自分の心身への負荷を積み重ねていくからです。
「あなたが弱いわけではない」ということを、まずお伝えしたいと思います。

自律神経と首肩こり、両方から整える漢方と養生

このお母さまへのケアでは、大きく「自律神経のバランスを整える」「首肩まわりの緊張をほぐし、気血の巡りを助ける」という二つの方向で漢方を組み立てていきました。

体質はお一人おひとり異なりますので、処方の内容はその方の状態を見ながら丁寧に選んでいきます。
「この症状にはこの薬」という一律の当てはめではなく、なぜそうなっているかという根っこのところから整えていく、それが漢方の考え方です。

一つ、養生についてもお伝えしておきたいことがあります。

このお母さまには、「症状を細かくメモしないでください」とお伝えしました。
不安の強い方ほど、体調の変化を細かく記録しようとしてしまいます。
しかしそれが「不調探し」になってしまい、小さな変化にも過剰に意識が向いてかえってつらくなることがあるからです。
「今日はどうだったか」を一日中考え続けることが、それ自体がストレスになってしまうのです。

また、早歩き程度の軽い運動も取り入れていただきました。
体を動かすことは、滞った気血の巡りを促すだけでなく、頭の中でぐるぐると続く心配ごとの思考をほどいていく助けにもなります。
ハードな運動でなくてよいのです。20分程度の早歩きを習慣にするだけで、体が軽くなっていくのを感じる方は多くいらっしゃいます。

約1年ちょっとで「卒業」へ

漢方を始めて最初の数か月は、ゆっくりとした変化でした。

まず感じていただけたのは、吐き気や胃の不快感が少しずつ軽くなっていったことです。
「以前より食べられるようになってきた」という言葉が出てきたのが、ひとつの転換点でした。

朝の憂鬱感も、日によって波はありながら、「以前ほど重たくない朝が増えた」という状態に変わっていきました。
首肩こりは、完全に消えるというより、「凝っているけれど、以前ほどつらくない」という感覚に変化していったそうです。
血圧への不安も和らぎ、生活全体がだんだんと安定してきた、とお話してくださいました。

そして、漢方を始めてから1年ちょっとで、無事に卒業の流れとなりました。

心と体が崩れていくときには時間がかかったように感じるかもしれません。
でも、整えていくにも、やはり時間がかかります。
それは当たり前のことで、焦る必要はありません。
少しずつ、確実に、体は変わっていけます。

今このお母さまは、以前の自分に戻るどころか、娘さんの回復を穏やかに見守れるご自身を取り戻されています。

付き添う家族の方へ──ひとりで抱え込まないでください

家族を支えている方ほど、自分のことを後回しにしてしまいがちです。

「自分がしっかりしていないと」「私が弱音を吐いている場合じゃない」という気持ちは、とてもよく理解できます。
しかしそうして限界まで頑張り続けた結果、心と体が悲鳴を上げてしまうことは、決して特別なことでも、弱いことでもありません。

付き添う側の方が体調を崩してしまうというのは、臨床の場では本当によく見ることです。
そして多くの場合、ご本人が一番それに気づきにくいのです。

気になることがあれば、早めに誰かに話してみてください。
抱え込む時間が長くなればなるほど、回復にも時間がかかりやすくなります。
漢方の相談でも、かかりつけ医でも、信頼できる人への話でも構いません。
あなたが整ってこそ、傍にいる方を支え続けることができます。

付き添う家族の方も、ケアされていい大切な存在です。
どうか、ご自分のことも大切にしてください。

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長年のお悩みでも、どこに行っても改善しなかった経緯があっても、遠慮なくお聞かせください。
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この記事の著者・監修

漢方薬・紫雲 代表薬剤師 Kampo Shiun

  • 薬剤師(国家資格)
  • 漢方専門歴 20年以上
  • 気功実践歴 20年以上
  • 開局15年(2010年〜)
  • 漢方薬・紫雲 代表
  • 全国オンライン対応

神奈川県湘南エリアで漢方薬局「漢方薬・紫雲」を開局。 薬剤師として西洋薬の知識を持ちながら、20年以上にわたり漢方・気功の専門家として 多くの患者さまの体質改善に携わってきました。 「どこに行っても改善しなかった」「病院で異常なし、でもつらい」という方のご相談を 特に大切にしています。煎じ薬・氣功チェックを組み合わせた、紫雲ならではのアプローチで根本からの体質改善を目指します。

※ 本記事は薬剤師・漢方専門家の監修のもと作成しています。個別の症状についてはご相談ください。