10年以上続くIBS(過敏性腸症候群)と便の不安定感に悩む方へ|油・脂の消化に着目した女性の漢方相談例

「10年以上、ずっとこのお腹と付き合ってきた」という方が、当店にはよくご相談に見えます。

下痢と軟便、突然やってくる便意、お腹の張りやガス。
症状そのものよりも、「また今日もどこかトイレを探しながら過ごすのか」という憂鬱さが、毎日にのしかかっている——そんなふうに話してくれる方が少なくありません。

過敏性腸症候群(IBS)と説明を受けた方の多くは、「ストレスが原因ですよ」という言葉とともに治療をスタートします。
たしかにストレスはからだに大きく影響します。
ただ、「ストレスを減らしましょう」と言われても、仕事も生活もすぐには変えられない。
薬で少し落ち着いても、また波がくる。
そのくり返しに疲れている方もたくさんいらっしゃいます。

今回ご紹介するのは、10年以上IBSと向き合ってきた30代の会社員女性のご相談例です。
ストレスへのアプローチだけでなく、「油・脂の消化」「胆汁のアンバランス」という視点を加えたことで、便の状態に変化が感じられたという一例になります。

10年以上続くIBSと便の不安定感

ストレス起点で始まったお腹の症状

Aさん(30代・会社員)がお腹の不調を意識しはじめたのは、大学受験の時期でした。

模試の前日から、決まってお腹がゆるくなる。
試験当日の朝は、家を出る前にトイレに何度も行かずにいられない。
「緊張するとお腹に出るタイプなんだ」とそのときは思っていたと、Aさんは振り返ります。

受験が終われば落ち着くだろう——そう期待していたのですが、大学に入っても症状はついてきました。
発表の日、ゼミの発表、就職活動の面接。
プレッシャーがかかる場面では、決まってお腹が反応する。
からだが「緊張をお腹で受け取る」パターンが、少しずつ定着していきました。

社会人になってからも、その傾向は続きました。
締め切りの前後、大事なプレゼンの朝、初めて会う取引先との打ち合わせ。
そのたびに、お腹がざわつく。
仕事自体は好きなのに、「またお腹が心配で頭が回らない」という状態が、10年以上にわたって日常の一部になっていきました。

IBSと説明された経緯

症状が続くなかで、Aさんは消化器内科を受診しました。
内視鏡検査なども行い、「腸に器質的な異常はないですね。過敏性腸症候群(IBS)でしょう」と説明を受けたのは、20代半ばのことです。

整腸剤や腸の動きを整える薬が処方され、しばらくは少し楽になりました。
「ようやく名前がついた」という安心感もあったといいます。

ただ、薬を飲んでいる間は波が小さくなっても、ストレスの強い時期に入るとまた戻る。
飲み続けることへの抵抗も少しずつ出てきて、薬を減らすとまた悪化する。
「改善というより、なんとか凌いでいる感じ」という状態が、その後も長く続きました。

便の不安定感と日常生活への影響

Aさんの症状は、下痢と軟便だけではありませんでした。

何日か軟便が続いたかと思うと、急にお腹が張って便が出にくくなる。
ガスがたまって、会議中に音が出ないか気になる。
便意が突然やってきて、外出先でトイレを探してあわてる。
電車に乗るときは、乗り換えのたびにトイレの場所を確認するのが習慣になっていました。

お腹の症状そのものに加えて、「次にどこでトイレに行けるか」という不安が常に頭の片隅にある状態。
遠出の計画を立てにくく、旅行の誘いをためらうことも。
仕事は続けていましたが、「お腹さえなければもっと動けるのに」という気持ちが、じわじわと積み重なっていきました。

ご相談時の状態とこれまでの経過

ご相談時点の年齢と生活状況

当店にご相談に来られたのは、30代前半のことです。
独身で会社員として働いており、仕事はそれなりに充実していましたが、ここ数年は業務量が増え、慢性的な疲れを感じていたといいます。

それまでに試してきたことは、決して少なくありませんでした。
整腸剤・IBSに処方される薬の服用はもちろん、ヨーグルトや乳酸菌サプリ、食物繊維の補充、脂っこいものを控えた食事制限、ストレッチや軽い運動など。
「やれることはひととおりやってきた。でも、波はあっても、完全には安定しない」というのが、ご相談時の率直なお気持ちでした。

食事と脂・乳製品との関係に気づいたきっかけ

転機になったのは、ある日の食事日記でした。

スマートフォンのアプリで何気なく食事を記録しはじめたAさんは、「翌日お腹が特に悪かった日」の前日を振り返ってみると、揚げ物・クリームソース・チーズなど、脂の多い食事が並んでいたことに気がつきます。

逆に、和食中心でシンプルな食事が続いた週は、比較的お腹が落ち着いている。
外食で脂の多いランチをとった日の午後は、お腹がぐるぐるしやすい。
「気のせいかと思っていたけど、やっぱり脂と関係しているかも」という感覚が、少しずつ確かなものになっていきました。

乳製品も同様でした。
「自分には合わないのかもしれない」とやめてみると、少し楽になった体感があったといいます。

IBS+脂の視点で相談しようと思った理由

「ストレスだけでは説明しきれない」という感覚が、Aさんのなかでじわじわと大きくなっていきました。

ストレスが少なめの時期でも、脂の多い食事が続いた翌日は調子が悪い。
逆に、仕事が忙しくてもシンプルな食事を続けられた週は、思ったより安定している。
「もしかすると、腸だけでなく、脂の消化そのものに問題があるのかもしれない」という疑問が浮かんできました。

そんなとき、当店の「脂の消化と胆汁」に関する記事を読んで、「これは自分のことかもしれない」と感じたとのこと。
IBSとストレスの話だけでなく、からだの油の処理方法や体質の傾きという観点で相談できる場所を探していたAさんにとって、「体質からみてもらえそう」という印象があってご来店いただきました。

油・脂の消化に着目することになった経緯

こうして、IBSとして長く付き合ってきたお腹の症状に、「油・脂の消化」と「胆汁のアンバランス」という視点を足してみることになりました。

食事日記や振り返りから見えてきた傾向

ご相談のなかで、Aさんの食生活をあらためてていねいに振り返っていきました。

悪化しやすかったのは、揚げ物・バターや生クリームを使った料理・外食(特に洋食やファストフード)の翌日。
夜遅い時間に脂の多い食事をとった日は、翌朝からすでに調子が悪いことも多かったといいます。

一方、比較的安定していたのは、野菜と魚が中心の食事が続いた週、自炊メインで外食が少なかった時期、意識して早めに夕食をすませられた日々。
「脂を控えた週は、ストレスがあっても少し持ちこたえられる感じがした」という言葉が印象的でした。

腸内細菌と脂・胆汁の関係のかんたんな説明

脂の多い食事をとると、からだはそれを消化するために胆汁を多く出します。
胆汁は脂を分解するための消化液ですが、腸の中でこの胆汁が過剰になったり、うまく処理しきれなかったりすると、腸内の環境が変わり、便がゆるくなったりガスが増えたりすることがあるといわれています。

また、もともと腸が敏感な状態にあると、脂や胆汁によるわずかな刺激にも過剰に反応しやすくなることがあります。
「脂を食べるとすぐ下痢になる」という方の一部には、このような背景がある場合があると考えられています。

IBSの「ストレス×腸」に、「脂・胆汁」の視点を足す意味

IBSの治療では、ストレスと自律神経の関係がよく取り上げられます。
それはとても大切な視点です。
ただ、ストレスで腸が敏感になっているところに、脂・胆汁の負担が重なると、症状がより出やすくなる可能性があります。

「ストレスだけのせい」と思っていると、食事の影響が見えにくくなることがあります。
「心の問題」として抱えるのではなく、「からだへの物理的な負担も含めて整理する」という視点を持つことで、改善のヒントが見つかることもあります。
Aさんのケースでも、この「脂・胆汁」という切り口が、見落とされていたピースを補う形になりました。

漢方から見た「胃腸+脂+水」の体質像

胃腸の弱りやすさ(便がゆるい・冷え・疲れやすさ)

Aさんのからだには、胃腸がもともと疲れやすく、無理が続くとすぐに便がゆるくなるという傾きがありました。
冷たいものを飲むとお腹が反応する、疲れた週の終わりは決まってお腹の調子が落ちる、夏でも冷房の効いた場所にいるとお腹がすぐ冷える——そういった体感が、10年以上の歴史のなかにいくつも見えていました。

漢方では、胃腸の「気力・消化力」が落ちやすい体質の方は、ちょっとした負荷でお腹に出やすいと考えます。
栄養を吸収する力が弱まると、余分なものが腸に流れ込みやすくなり、便が安定しにくくなる傾向があります。

水分や脂が溜まりやすい体のくせ(むくみ・だるさ・お腹のぐるぐる)

Aさんにはもうひとつ、からだに「余分な水分と脂」が処理しきれずに溜まりやすいくせがありました。
朝起きると顔がむくんでいる、雨の日は特にだるい、お腹がぐるぐると音を立てやすい——こういった症状が、長年の背景にありました。

胃腸の消化力が落ちているところに脂の多い食事が加わると、余分なものがスムーズに流れていかず、腸の中で停滞しやすくなります。
ガスや張り感が出やすいのも、このような体質の傾きと関係していることがあります。

ストレスでお腹に出やすいタイプ(緊張で下痢、休日は比較的安定)

平日の通勤電車では緊張してお腹が動くのに、休日の朝はわりと落ち着いている。
仕事中は気になるのに、家でリラックスしているときはそれほどでもない。
こうした「緊張・ストレスで腸が反応しやすいタイプ」は、自律神経が腸に影響を与えやすい体質の傾きといえます。

漢方では、精神的な緊張や感情の波が直接お腹に響きやすい体質の方がいると考えます。
Aさんはまさにこのタイプで、「心とお腹がつながりすぎている」状態が長年の土台になっていました。
ここに脂・胆汁の負担が乗ることで、症状がより出やすくなっていたと考えられました。

実際に行った漢方相談と生活の工夫

漢方の方向性

Aさんのご相談では、いくつかの方向性を組み合わせる形で漢方を選んでいきました。

まず、胃腸の働きそのものを助ける方向
消化力が弱まっているからだを底上げし、食べたものをスムーズに処理できるような土台をつくることを大切にしました。

次に、脂の処理・胆汁の流れをサポートする方向
脂の多い食事をとったあとに腸への負担が出やすい体質に対して、その処理を助ける働きのある生薬を組み合わせました。

また、水分の偏りを整える方向
余分な水分が腸に溜まりやすいくせに対して、からだ全体の水の流れを整えることも意識しました。

さらに、緊張で腸が反応しやすい部分を少しなだめる方向も取り入れました。
完全にストレスをなくすことはできませんが、ストレスに対するからだの反応を少し和らげる方向性を加えることで、腸の過敏さを穏やかにする試みです。

これらの方向性は、糸練功(しれんこう)という体質分析の手法を使ってAさんのからだのアンバランスを確認しながら選んでいきました。
外側から見た症状だけでなく、からだの内側のアンバランスに合わせた漢方を選ぶことで、よりその方に合った方向性を探ることができます。

食事と油・脂との付き合い方の工夫

漢方と並行して、食事との向き合い方も少し変えていきました。

揚げ物の日の翌日は、消化の軽い食事で胃腸を休ませることを意識するようにしました。
「脂の多い食事を一切やめる」のではなく、「食べた翌日にリカバリーの日をつくる」という発想です。
完全に制限するよりも、メリハリをつけたほうが長続きしやすいという面もあります。

乳製品やクリームソースは、体感として悪化しやすいと感じていたため、量を控えめにすることにしました。
ゼロにするのではなく、「少量・たまに」というペースを心がけたといいます。

夕食の時間をできる範囲で前倒しにすることも、意外と効果があったとAさんは話していました。
夜遅い食事は消化に時間がかかり、翌朝の腸の状態に影響しやすいためです。
完璧にはできなくても、「なるべく21時前までに」という意識が、少しずつ習慣になっていきました。

数か月単位で見られた便の変化と気持ちの変化

漢方をはじめてから1か月ほどで、Aさんは「少し変わってきた気がする」と話してくれました。

最初に気づいたのは、便の形がまとまってきたこと。
以前はどろどろとしたドロ状の軟便が続くことが多かったのが、少しずつ形のある便が出る日が増えてきました。
まだ波はあるものの、「最悪の日」の頻度が少し減ってきた感覚があったといいます。

2〜3か月が経つころには、お腹の張りやガスの頻度も落ち着いてきたという変化が感じられました。
電車に乗るときの緊張感が、以前よりほんの少し軽くなった。
トイレを探しながら歩くことが、すこし減ってきた。

「完全にゼロになったわけではない。でも、波が少し穏やかになってきた」というのが、Aさんの言葉です。
長年のパターンがすっかり変わるには時間がかかりますが、「からだが少しずつ応答してくれている」という体感が、次のステップへの励みになったとのことでした。

Aさんは今、以前は億劫だった友人との遠出の計画を、少しずつ立てられるようになってきたといいます。
「お腹のことを考えなくてもいい時間」が、少しずつ増えてきた——そんな変化が、日常のなかに生まれはじめていました。

長期IBSでお悩みの方へのメッセージ

ストレスだけにせず、「脂・胆汁・体質」も一緒に見てみる

IBSと長く付き合っている方のなかには、「これはストレスの問題だから、漢方で変わるとは思えない」と感じている方もいらっしゃいます。

でも、ストレスとからだの問題は、どちらか一方ではなく重なり合っているものです。
ストレスで腸が敏感になっている状態に、脂・胆汁の負担、水分の偏り、胃腸の消化力の低下——こういった体質の傾きが重なることで、症状が出やすくなっている場合があります。

「ストレスをなくせばいい」ではなく、「からだの受け皿を少し整える」という方向から考えることも、長期IBSの糸口になることがあります。

体質や生活を含めて相談したい方へ

当店は、症状の名前だけでなく、そのからだの傾きやくせを一緒に読み解くことを大切にしています。
IBSと脂・胆汁の関係についてさらに詳しく知りたい方は、関連記事もあわせてご覧ください。

「10年以上続いているから、もう仕方ない」と諦めている方ほど、ぜひ一度ご相談ください。

遠方の方も、LINEで症状を簡単にお送りいただくだけで相談をスタートできます。
どこに行っても変わらなかった、という経緯があっても遠慮なくお声がけください。
藤沢にお住まいの方は、対面での詳しいご相談も承っています。

この記事の著者・監修

漢方薬・紫雲 代表薬剤師 Kampo Shiun

  • 薬剤師(国家資格)
  • 漢方専門歴 20年以上
  • 気功実践歴 20年以上
  • 開局15年(2010年〜)
  • 漢方薬・紫雲 代表
  • 全国オンライン対応

神奈川県湘南エリアで漢方薬局「漢方薬・紫雲」を開局。 薬剤師として西洋薬の知識を持ちながら、20年以上にわたり漢方・気功の専門家として 多くの患者さまの体質改善に携わってきました。 「どこに行っても改善しなかった」「病院で異常なし、でもつらい」という方のご相談を 特に大切にしています。煎じ薬・氣功チェックを組み合わせた、紫雲ならではのアプローチで根本からの体質改善を目指します。

※ 本記事は薬剤師・漢方専門家の監修のもと作成しています。個別の症状についてはご相談ください。

漢方治療の症例集