はじめに:パニック障害・不安と夜中の目覚めについて
夜中にふと目が覚めて、胸がドキドキしている。
理由もなく不安な気持ちがこみ上げてきて、そわそわして落ち着かない。
そんな経験はありませんか。
パニック障害や不安障害を抱える方の中には、夜間に何度も目が覚めてしまう「中途覚醒」や、めまい、手のひらの発汗、震えといった身体症状に悩まされている方が少なくありません。
「病院で薬をもらっているのに、なかなか症状が落ち着かない」
「薬は続けたいけれど、他にできることはないのだろうか」
藤沢市内で漢方相談を行う当店にも、そうしたお声がよく寄せられます。
今回は、動悸や不安感、夜間の中途覚醒などに悩んでいた30代男性の症例をご紹介します。
もちろん、これは数ある症例のうちの一つであり、同じ経過をたどる方ばかりではありません。
それでも、「自分と似ているかもしれない」と感じ、漢方という選択肢を知っていただくきっかけになればと思います。
こうした症状は、本人の気持ちの持ちようや性格の問題として片付けられてしまいがちですが、決してそうではありません。
緊張や不安が続くことで自律神経のバランスが崩れ、心臓の拍動や体温調節、発汗などをコントロールする働きに影響が出ることで、動悸やめまい、発汗といった身体症状として表れることは珍しくないのです。
なお、症状の背景や体質判断についてはあくまで漢方的な考え方に基づくものであり、医療的な診断や治療方針の変更は、必ず主治医にご相談のうえで行ってください。
症例紹介:パニック障害による動悸と中途覚醒に悩む30代男性Aさん
来店までの経緯
ご来店されたのは、30代の男性・Aさん(仮名)でした。
数年前、ある出来事をきっかけに強い恐怖や緊張を経験されたとのことでした。
詳しい状況はここでは伏せますが、日常の中でふとその時と似たような映像や状況に触れると、当時の記憶がよみがえるように感じられ、不安が強まることがあったそうです。
ここ半年ほどは、そうしたきっかけがなくても、次のような症状が続くようになっていました。
- 突然の動悸
- 理由のわからない、そわそわとした不安感
- 寝入ってから3時間半ほど経つと目が覚めてしまう(中途覚醒)
- 首を振ったときに感じるめまい
- 手のひらの発汗や、軽い震え
すでに心療内科を受診されており、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類される抗うつ薬を服用中でした。
薬による治療は続けたいという意向をお持ちの一方で、「症状の波をもう少し穏やかにできないか」というご相談で来店されました。
カウンセリングと漢方的な見立て:パニック障害による動悸・不安と自律神経の乱れ
「気」の乱れという視点
漢方では、心身の状態を「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素のバランスで捉えます。
このうち「気」は、生命活動を支えるエネルギーのようなもので、全身をめぐりながら心と体の働きを支えていると考えられています。
この「気」の巡り方に乱れが生じると、動悸や不安感、めまい、発汗といった症状として現れることがあります。
中でも、本来は全身を穏やかにめぐるはずの気が、過剰に上半身や頭部へ集まってしまう状態を「気が上る(気の上昇)」と呼びます。
急に顔がほてったり、動悸が強く出たり、そわそわと落ち着かなくなったりするのは、この状態の現れの一つと考えられています。
この「気の上昇」は、パニック障害や不安障害の方によく見られる体質パターンの一つです。
なぜ「気が上りやすい」状態と考えたか
Aさんの訴えを伺うと、動悸、めまい、手のひらの発汗、そして「そわそわして落ち着かない」という不安感は、いずれも上半身や頭部に症状が集中している点が特徴的でした。
また、過去の出来事を思い出すと症状が強まるという経過からも、緊張や不安をきっかけに気が一気に上へ突き上げるような体質的な傾向がうかがえました。
こうした所見から、当店では「気の上昇が強く出ている状態」と見立て、それを鎮めながら、同時に滞りがちな気の巡り全体を整えていく方針を立てました。
なお、繰り返しになりますが、Aさんは並行して心療内科でのお薬による治療を継続されていました。
漢方はあくまで、その治療を補い、日々の体調管理を後押しする位置づけとしてご提案したものです。
お薬を自己判断で減らしたり中止したりすることのないよう、この点は特に丁寧にお伝えしました。
漢方処方と経過:パニック障害による動悸と夜間の中途覚醒が和らぐまで
二本立てでの処方
Aさんには、次の2種類を組み合わせてご提案しました。
- 上に突き上げる気を鎮めることを目的とした処方(湯剤)
- 全身の気の巡りを穏やかに整えることを目的とした丸剤
「気を鎮める処方」で急な高ぶりを落ち着け、「気を巡らせる丸剤」で日常的な滞りをゆるめていく、という組み合わせです。
一つの処方だけに頼るのではなく、急性の症状と体質的な土台の両方に働きかけることを意識しました。
経過(時系列)
服用開始〜数週間
飲み始めてすぐに劇的な変化があったわけではありませんが、数週間ほど経った頃から「動悸が起きても、以前ほど強く感じない」といった変化を実感し始めたとのことでした。
1〜3ヶ月ほど
夜中の中途覚醒の回数が少しずつ減り、目が覚めても再び眠りに入りやすくなっていきました。
日中のそわそわとした落ち着かなさも、以前より穏やかになっていったそうです。
半年〜1年
発作的な動悸やめまいの頻度自体が減ってきました。
同時に、「また症状が出るのではないか」という予期不安——症状そのものへの不安感——も少しずつ和らいでいきました。
波がまったくなくなったわけではないものの、波の高さそのものが小さくなっていった、という印象だったそうです。
このように、Aさんの場合は1年ほどの時間をかけて、少しずつ体調が整っていきました。
ただし、これはあくまで一つの経過であり、体質や生活環境によって変化のスピードや現れ方は人それぞれ異なります。
現在の様子と今後:パニック障害の再発予防と日々のセルフケア
現在、Aさんは漢方薬を卒業されています。
心療内科でのお薬による治療も卒業し、睡眠のリズムを整えることやストレスとの付き合い方といった、日々の養生を継続されているとのことです。
ここで大切にお伝えしたいのは、症状を完全にゼロにすることだけがゴールではないということです。
人は誰しも、多かれ少なかれ心身の波を抱えながら生活しています。
「波がなくなること」よりも、「波が来ても、以前ほど大きく崩れずに付き合えるようになること」もまた、一つの大切な目標だと当店では考えています。
養生の面では、就寝前にスマートフォンやテレビの光を控える、湯船にゆっくり浸かって体を温める、決まった時間に起きるといった、生活リズムを一定に保つ工夫を続けていらっしゃるとのことです。
特別なことではありませんが、こうした小さな積み重ねが、気の巡りを穏やかに保つ土台になっているのかもしれません。
まとめ:パニック障害や不安症状に対する漢方という一つの選択肢
今回ご紹介したのは、あくまで一つの症例です。
同じような症状であっても、体質や背景は人それぞれ異なるため、必ずしも同じ処方、同じ経過をたどるわけではありません。
「漢方を飲めば治る」「必ず効く」というものではなく、あくまで体質を整えるための一つのアプローチとしてご理解いただければと思います。
パニック障害や不安感、夜間の中途覚醒などでお悩みの方は、まず自己判断でお薬を減らしたり中止したりせず、主治医とよくご相談ください。
そのうえで、治療の選択肢の一つとして漢方に関心をお持ちでしたら、お気軽にご相談いただければと思います。
ご相談の流れ:パニック障害や不安・不眠の漢方相談をご希望の方へ
当店でのご相談は、完全予約制で承っております。
事前にお電話またはウェブフォームよりご予約をお願いしております。
遠方の方や、通院との兼ね合いでご来店が難しい方向けに、オンラインでのご相談にも対応しております。
まずは現在のお悩みやお薬の状況について伺いながら、無理のない形で今後の方向性を一緒に考えていきますので、どうぞ気負わずお問い合わせください。
