「食事中、箸を持つ手が震えて困る」
「コップを持つときに震えてこぼしてしまう」
「人前で字を書くと手が震えて恥ずかしい」
——そんな悩みを抱えながら、それでも誰にも言えずにいる方は少なくありません。
病院で検査を受けて「本態性振戦」と診断された方の中には、「パーキンソン病ではないか」と不安になった方も多いでしょう。
あるいは、薬を処方されたものの「一生飲み続けるのは不安」「副作用が心配」という気持ちから、漢方など別の方法を探している方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、本態性振戦について、漢方の視点からわかりやすく解説します。
なぜ震えが起きるのか、漢方でどのようにアプローチするのかを丁寧にお伝えします。
「手の震えの原因を知りたい」
「本態性振戦は漢方で改善できるのか」
と調べている方に向けて、わかりやすくまとめました。
本態性振戦とは
本態性振戦は、特定の病気や薬の副作用ではなく、体質的・神経的な原因で起こる震えのことです。
「本態性」というのは「それ自体が病態である」という意味で、震えそのものが主な症状です。
日本では推定100万人以上が抱えているとも言われており、決して珍しい状態ではありません。特に中高年以降に多く見られますが、若い世代にも起こります。
主な症状
本態性振戦の震えには、いくつかの特徴があります。
もっとも多いのは手の震えです。
食事中や字を書くとき、コップを持つときなど、何か動作をしているときに震えが出やすい傾向があります。
これを「動作時振戦」といいます。
また、頭部の震えや声の震えが出る方もいます。
緊張したとき、疲れているとき、カフェインを摂ったときなどに震えが強くなることも多く、「緊張するとひどくなる」という訴えはとてもよく聞かれます。
一方で、安静にして体を動かしていないときは震えが出ない、あるいは軽くなるという点が特徴のひとつです。
どんな人に多いのか
本態性振戦は、年齢を重ねるにつれて発症しやすくなる傾向があります。60代以上の方では、10人に1人程度にみられるという報告もあります。
ただし、30〜40代で発症するケースも珍しくありません。
また、家族に同じような症状があるという方も多く、遺伝的な要素が関係していると考えられています。
几帳面で神経質な傾向のある方、ストレスを抱えやすい方、疲労が蓄積しやすい生活を続けている方に多いという印象も、漢方の現場ではよく見受けられます。
本態性振戦の原因
現代医学的には、本態性振戦の原因は「まだ完全には解明されていない」とされています。
脳内の神経回路——特に小脳や視床といった部位——の働き方に関係していると考えられており、神経が過剰に興奮した状態になることで、意図しない震えが生じると言われています。
遺伝的要素に加えて、加齢、ストレス、疲労、睡眠不足なども発症や悪化に関係するとされています。
本態性振戦とパーキンソン病の違い
手が震えると聞いて、多くの方が真っ先に心配するのが「パーキンソン病ではないか」ということです。
確かに、どちらも「手が震える」という症状を持ちますが、震えの特徴や病気の性質は大きく異なります。
不安を抱えている方のために、わかりやすく整理します。
震えのタイミングが違う
本態性振戦の震えは、手を動かしているとき(コップを持つ、字を書くなど)に起きやすい「動作時振戦」が中心です。
一方、パーキンソン病の震えは、手を膝の上に置いてじっとしているとき——つまり安静にしているときに起きやすい「安静時振戦」が特徴です。「丸薬を丸めるような動き」に見えると言われることもあります。
進行の仕方が違う
本態性振戦は、長年かけてゆっくり変化することがありますが、パーキンソン病のように運動全体が障害されるわけではありません。
パーキンソン病は進行性の神経変性疾患であり、震え以外にも動作が遅くなる(動作緩慢)、筋肉が固くなる(筋固縮)、転びやすくなる(姿勢反射障害)といった症状が重なっていきます。
震えの部位や広がりが違う
本態性振戦は両手に出ることが多く、頭や声にも出ることがあります。パーキンソン病は片側の手や足から始まることが多いとされています。
診断について
「自分はどちらなのか」を自己判断することは難しいです。
不安がある場合は、神経内科を受診してしっかり診断を受けることをお勧めします。
本態性振戦と診断されたということは、パーキンソン病ではないと確認されたということでもあります。
それだけでもまず、安心していただければと思います。
本態性振戦の西洋医学的治療
本態性振戦と診断されたとき、「どんな治療があるのか」が気になる方も多いと思います。
ここでは、一般的に行われる治療の流れを簡単にご紹介します。
まずは経過観察になることも多い
震えがあっても日常生活への支障が少ない場合、すぐに薬を使わず「様子を見ましょう」と経過観察になることがあります。
本態性振戦は命に関わる病気ではないため、症状の程度によっては焦って治療を始める必要がないケースもあります。
薬による治療
日常生活に支障が出ている場合、一般的にはβ遮断薬(高血圧の治療にも使われる薬)や抗てんかん薬の一種が使われることがあります。
一定の効果が期待できる一方で、すべての方に効果があるわけではなく、副作用が気になって長期服用をためらう方もいらっしゃいます。
不安が強いとき・症状が進む感じがあるときは神経内科へ
「最近震えがひどくなっている気がする」「他の症状も出てきた」という場合は、あらためて神経内科を受診することをお勧めします。
定期的な経過観察を続けることが、安心にもつながります。
漢方はこうした病院での治療と並行して取り入れることが可能です。
「薬だけに頼らず、体質から整えたい」という方に、ひとつの選択肢として活用されています。
手の震えが起こる理由
神経の働き
体を動かすとき、脳からの命令は神経を通じて筋肉に伝わります。
この信号の流れに何らかの「乱れ」が起きると、筋肉が過剰に収縮と弛緩を繰り返し、震えとして現れます。
本態性振戦では、脳内の特定の回路——小脳と視床を結ぶネットワーク——が過剰に活動することで、この「信号の乱れ」が生じると考えられています。
ストレスとの関係
ストレスがかかると、体は「緊張モード」になります。
このとき、交感神経が優位になり、アドレナリンなどのホルモンが分泌されます。
これが筋肉の緊張を高め、神経の興奮を促すため、震えが起きやすく・強くなります。
「人前に出ると震えがひどくなる」という方が多いのは、まさにこの理由からです。
もともと本態性振戦がある方では、ストレスがトリガーとなって、震えが急激に悪化することもあります。
自律神経との関係
自律神経は、心臓の動きや血圧、体温、消化など、体の自動的な機能を調整している神経系です。
自律神経のバランスが乱れると、体のさまざまな部位に「不安定さ」が現れます。
手の震えも、その現れのひとつと考えることができます。
特に、睡眠不足・不規則な生活・慢性的なストレスが続いている方は、自律神経のバランスが崩れやすく、震えが出やすい状態になっていることがあります。
漢方からみた本態性振戦
漢方では、本態性振戦を「震え」という症状単体で捉えるのではなく、その人の体全体の状態のアンバランスとして捉えます。
気の乱れ
漢方でいう「気(き)」とは、体を動かすエネルギーのことです。
気は全身をスムーズに巡ることで、体の機能を正常に保っています。
ストレスや感情の乱れ、疲労などが続くと、気の流れが滞ったり(気滞)、気が上に突き上げるような状態(気の上昇)が起きやすくなります。
この「気の乱れ」が神経の興奮や筋肉の不随意な収縮を引き起こすと考えるのが、漢方的なアプローチのひとつです。
特に、緊張やイライラで症状が悪化するタイプの方は、この「気の乱れ」が関係していることが多いとされています。
血の不足
漢方でいう「血(けつ)」は、西洋医学の「血液」に近い概念ですが、栄養や潤いを全身に運ぶものとして、より広い意味を持ちます。
血が不足した状態(血虚)になると、筋肉や神経への栄養供給が不十分になり、震えやけいれん、しびれといった症状が出やすくなると考えられています。
加齢とともに血が減りやすくなること、また過労や睡眠不足が血を消耗することも、年齢を重ねた方に本態性振戦が多い理由と関係していると漢方では捉えます。
冷え性の方、肌や髪が乾燥しやすい方、目が疲れやすい方などは、血虚の傾向がある可能性があります。
体質との関係
同じ本態性振戦でも、人によって原因となる体質のアンバランスは異なります。
- 神経が過敏でイライラしやすい → 肝の気が高ぶっている状態
- 疲れやすく、体力が落ちている → 気虚・血虚の状態
- めまいや頭重感も伴っている → 水毒(体内の余分な水分)が関係している状態
漢方では、こうした体質の違いを丁寧に見極め、その人に合った処方を選びます。「震え」という同じ症状でも、処方が変わることがあるのはこのためです。
本態性振戦によく使われる漢方薬
ここでは、本態性振戦に関連してよく使われる漢方薬を3つご紹介します。
ただし、漢方薬は体質や症状によって合うものが異なります。自己判断での服用は避け、専門家に相談することをお勧めします。
抑肝散(よくかんさん)
こんな体質・状態の方に向きます
- 細かいことが気になり、ストレスをためやすい
- もともと神経質で、緊張すると体に症状が出やすい
- 疲れてくると特に震えが強くなる
- 比較的体力は普通〜やや低下している、細身の方が多い
こんな症状の方によく使われます
- 人前で字を書くときや食事中に手が震えて困っている
- 緊張すると震えがひどくなり、余計に焦って悪循環になる
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚めることが多い
- イライラしやすく、感情のコントロールが難しいと感じる
もともと小児の夜泣きや疳の虫(かんのむし)に使われてきた処方ですが、現代では成人の神経過敏・不眠・認知症の周辺症状にも幅広く活用されています。
「気の高ぶり」を鎮めることが得意な処方です。
釣藤散(ちょうとうさん)
こんな体質・状態の方に向きます
- 50〜70代以降で、最近震えが気になり始めた
- もともと血圧が高め、または高血圧と言われたことがある
- 頭が重い・頭がぼんやりするという感覚が続いている
- 肩や首がこりやすく、頭痛が出やすい体質
こんな症状の方によく使われます
- 手の震えに加えて、めまいや耳鳴りも気になる
- 朝起きると頭が重く、なかなかすっきりしない
- コーヒーを飲んだり疲れがたまると震えが強くなる
- 動作中だけでなく、じっとしているときにも体がふわふわする感覚がある
脳や神経の過緊張を和らげながら、血流を整える働きがあると考えられています。
頭部への血流が滞りがちな方に向く処方です。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
こんな体質・状態の方に向きます
- 精神的なストレスが多く、気持ちが落ち着かないことが多い
- 動悸がしやすく、ちょっとしたことで心拍が上がる
- 体力はあるほうで、体格はしっかりしている(ガッチリ型)
- 仕事や家庭でのプレッシャーを強く感じやすい
こんな症状の方によく使われます
- 緊張や不安が強くなると手の震えが顕著に出る
- 人前に出る場面(会議・食事・署名など)で震えが気になって避けるようになった
- 夜になっても頭が冴えていて、なかなか気持ちが切り替えられない
- 震えと一緒に、動悸・息苦しさ・不安感が出ることがある
精神的な緊張・不安・興奮を鎮める作用が強い処方で、「神経の高ぶりを内側からしずめる」イメージに近い漢方薬です。
竜骨・牡蛎といった鉱物・貝殻由来の生薬が心を落ち着かせる役割を担っています。
日常生活で気をつけたいこと
漢方での体質改善と並行して、日常生活を整えることも大切です。
ストレスをためすぎない
ストレスは、本態性振戦の最大の悪化要因のひとつです。
「完璧にこなさなければ」「人にどう見られるか」という意識が強い方ほど、緊張時の震えが強くなる傾向があります。
「少し手が震えても大丈夫」という気持ちのゆとりを持つこと自体が、症状の緩和につながることがあります。
完全に消し去ろうとするより、うまく付き合う感覚で向き合うことが、長期的には助けになります。
「緊張すると震えが強くなる」「人前で字を書く場面がつらい」など、場面によって悪化する方も多いです。
この“緊張と震え”の関係は別の記事で詳しく解説します。
カフェインを控える
コーヒー、緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、神経を興奮させる作用があります。
本態性振戦がある方には、カフェインが震えを悪化させることが多く報告されています。
完全にやめる必要はありませんが、飲む量やタイミングを見直すだけで、症状が落ち着く方もいます。
睡眠の質を上げる
睡眠不足は、神経の過敏さを高め、震えを悪化させます。
「眠れない」「眠りが浅い」という方は、まず睡眠環境を整えることが先決です。
就寝前のスマホやPC操作を減らす、寝室を暗くする、就寝・起床時間を一定にする——こうした基本的なことが、神経系の安定につながります。
自律神経を整える習慣
ウォーキングや軽いストレッチ、腹式呼吸など、副交感神経を優位にする習慣が助けになります。
特に腹式呼吸は、場所を選ばずいつでもできます。鼻からゆっくり吸って、口からゆっくり吐く。
これを繰り返すだけで、体の緊張が少しずつほぐれていきます。
漢方治療の考え方
体質改善という視点
西洋医学の治療薬(β遮断薬など)は、震えという症状を直接抑えることを目的とします。
一方、漢方は症状の根本にある体質のアンバランスを整えることを目指します。
震えそのものだけでなく、「なぜこの人にこの震えが起きているのか」という体全体の状態を見ながら処方を選びます。
そのため、震えの改善だけでなく、「眠れるようになった」「気持ちが落ち着いてきた」「疲れにくくなった」という変化が先に出てくることもあります。
体の土台が整うにつれて、震えも少しずつ落ち着いてくる——それが漢方的な改善の流れです。
自律神経との関係
漢方薬の中には、自律神経のバランスを整える働きを持つものが多くあります。
抑肝散や釣藤散に含まれる「釣藤鈎(ちょうとうこう)」という生薬は、神経系の過剰な興奮を抑える作用があると考えられており、現代の研究でもその働きが注目されています。
体質改善を通じて自律神経が安定してくると、ストレスへの耐性も上がり、緊張時の震えが以前ほど気にならなくなるという変化も期待されます。
長期的な改善
漢方は即効性よりも、時間をかけて体質を変えていくアプローチです。
一般的に、漢方での体質改善には数ヶ月単位の時間が必要とされています。
「飲んですぐ震えが止まる」というものではありませんが、続けることで体の底から安定してくる感覚が得られる方も多くいらっしゃいます。
西洋医学の治療と組み合わせながら取り組むことも可能です。
漢方薬局での相談の際は、現在服用中のお薬についても必ずお伝えください。
改善までの目安
個人差があるため一概には言えませんが、目安としてお伝えします。
1〜2ヶ月:睡眠の質が上がる、気持ちが落ち着いてくる、疲れにくくなるなど、体の土台の変化を感じ始める方が多い時期です。
3〜6ヶ月:体質が変わってくるにつれて、震えの頻度や強さが以前より落ち着いてきたと感じる方が出てくる時期です。
6ヶ月以上:長年の体質傾向から来る症状は、それなりの時間をかけて整えていく必要があります。焦らず続けることが大切です。
漢方を続ける中で「体の変化を感じにくい」「症状が変わらない」という場合は、処方の見直しが必要なこともあります。
定期的に相談しながら進めることが、遠回りのようで実は一番の近道です。
実際に漢方で体調が変化していった本態性振戦(手の震え)の症例については、こちらの記事で紹介しています。
●妊活のために病院薬をやめたい方の症例:本態性振戦と向き合う30代女性の体験記
漢方薬局で相談するメリット
病院での治療と、漢方薬局での相談。どちらが良いということではなく、それぞれに強みがあります。
漢方薬局での相談の大きな特徴は、「時間をかけて体全体を見てもらえる」ことです。
震えという症状だけでなく、睡眠の状態、胃腸の調子、冷えやのぼせの有無、精神的な状態、生活習慣など——総合的な視点でお話を聞きながら、その人の体質に合った処方を選びます。
また、「薬を飲み始めてからの変化」を継続的に確認しながら、処方を微調整していくことができるのも、漢方薬局ならではのサポートです。
市販の漢方薬をご自身で選ぶことも可能ですが、本態性振戦のような神経系の症状は、体質の見立てが大切です。専門家に相談することで、より自分に合ったアプローチを見つけやすくなります。
手の震え・本態性振戦でお悩みの方へ
「震えが気になって、人前で食事できない」「字を書くのが怖い」「この先どうなるのか不安」
——そんな思いを抱えながら、毎日を過ごしている方に、ぜひ知っていただきたいことがあります。
本態性振戦は、命に関わる病気ではありません。
しかし、日常生活の質(QOL)に大きく影響するため、「たいしたことない」と片づけられるものでもないと私たちは考えています。
震えが気になって外食を避けるようになった、人前に出るのが怖くなった——そういう変化は、小さいようで実は大きな生活の制限です。
漢方では、そうした「生活の制限をなくしていく」ことを目標に、体質から整えていくお手伝いをしています。
まずは一度、お気軽にご相談ください。「どんなことを話せばいいかわからない」という方も、体の状態をお聞きするところから始めますので、ご安心ください。
最後に——まずは医療機関への受診を
手の震えが気になり始めたとき、あるいは「本態性振戦かもしれない」と思ったとき、まず大切なのは医療機関(神経内科)を受診して、正確な診断を受けることです。
手の震えには、本態性振戦以外にも、甲状腺の病気、薬の副作用、アルコールとの関係など、さまざまな原因が考えられます。
パーキンソン病との鑑別も含め、適切な検査と診断は、治療の出発点として欠かせません。
漢方での体質改善は、診断を受けた上で「もう少し別の方向からもアプローチしたい」という方の選択肢のひとつです。
医療機関での治療と漢方を組み合わせることで、より幅広い改善の可能性が開けることもあります。
一人で抱え込まず、まずは専門家に相談することから始めてみてください。
🌿同じような症状でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
実際の症例や、当薬局での本態性振戦(手の震え)の漢方相談については、こちらのページもご覧ください。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。症状が気になる場合は、まず医療機関にご相談ください。漢方薬の服用にあたっては、専門家にご相談の上、適切なものをお選びください。
