「検査では何も異常がないと言われるのに、体はこんなにつらい」
そんな言葉を、相談の場で何度も聞いてきました。
頭痛、めまい、吐き気、疲労感、外出できない不安。
それぞれに病名はついている。
薬も処方されている。
それでも楽にならない。
検査値に異常がないため「原因不明」と言われ続け、行き場を失ってしまっている方が少なくありません。
今回ご紹介するのは、そのような状況の中で非対面の相談にお越しくださった40代の女性の方の記録です。
多くの症状がひとつの東洋医学的パターンでつながっていたという、漢方らしい気づきのある症例です。
個人差があることを前置きしながら、同じようなつらさを抱えている方に届けば、という思いで書いています。
コピー用紙10枚の訴え|自律神経失調症・パニック障害と診断されて
初回のご相談は、非対面(オンライン)でのご連絡でした。
問診票と一緒に届いたのは、コピー用紙およそ10枚にびっしりと書き込まれたお手紙です。
精神的なつらさから身体的な症状まで、書ききれないほどの不快感が綴られていました。
病院では「偏頭痛(片頭痛)・自律神経失調症・パニック障害・不安障害」という診断を受けていました。
しかし、どこへ行っても検査数値に異常は出ず、「原因が特定できない」という返答が続いていたそうです。
慢性的な頭痛。
外出しようとすると引き起こされる強い緊張と不安。
常につきまとう、めまいの感覚。
食べると気持ち悪くなる胃腸の弱さ。
そして、何をしていなくても夕方にはもうクタクタになってしまう極度のスタミナ不足。
症状は互いに絡み合い、日常生活の多くの場面を制限していました。
心療内科で処方された薬は、副作用が強く出てしまいほとんど飲めない状態。
頭痛薬も効かない。
頼れるものがどんどん減っていく中で、「原因がわからないのに薬だけ出される」ことへの不信感も深まっていたといいます。
さらにつらかったのは、ご家族からなかなか理解を得られなかったことです。
見た目には分からない不調を「気のせいでは」と受け取られてしまう孤独感。
その苦しさも、お手紙の中ににじんでいました。
「五志の憂」|感情と体の不調をひとつの言葉でつなぐ
東洋医学には「五行(ごぎょう)」という考え方があります。
自然界のあらゆるものを「木・火・土・金・水」の五つの要素で分類し、体の臓腑(ぞうふ)や感情とも対応させて理解するという枠組みです。
その中に「五志(ごし)」という概念があります。
五臓(肝・心・脾・肺・腎)それぞれに対応する感情のことで、「怒・喜・思・悲(憂)・恐」の五つを指します。
そして、この感情のバランスが崩れると、対応する臓腑の働きに影響が出るとされています。
「五志の憂(ごしのゆう)」とは、この五志のバランスが全体的に乱れ、エネルギーが消耗している状態を指す考え方です。
心配や不安、思い悩む気持ちが長く続いたり、感情の抑圧が重なったりすることで、体のさまざまな機能が同時に低下していく。
そのような病理パターンを、東洋医学ではひとつのまとまりとして捉えます。
西洋医学でいう「自律神経失調」に近い概念ですが、東洋医学の見立てはさらに感情や無意識の領域まで踏み込みます。
仕事や家庭のことが頭から離れず、眠っていても心が休まらないような状態も、五志の憂の一つのあらわれと言えます。
頭痛、めまい、胃腸症状、疲労感、外出への不安。
バラバラに見えるこれらの症状が、「五志の憂」という視点ではひとつのパターンとして読み解けるのです。
気功でエネルギーの状態を確かめる
当薬局では、漢方薬を選ぶ際に「糸練功(しれんこう)」という気功の技法を用いた体質分析を行っています。
これは気功の感度を活かして体のエネルギー状態を読み取る手法で、遠方の方でも非対面で対応することができます。
気功というと特別なことのように聞こえるかもしれませんが、あくまで東洋医学の体質分析の一手段です。
この方に対して気功チェックを行うと、「五志の憂」に対応するエネルギーの低下がはっきりと反応として現れました。
同時に、頭痛・胃腸症状・めまいといった身体症状との対応も確認できました。
こうした分析をもとに、気血(きけつ)を補いながら五志のバランスを整え、自律神経のアンバランスを緩和するという方針で漢方薬Aをお選びしました。
複数の症状が重なっているように見えても、根を同じくするパターンに対して一つの薬方で対応できるのが、オーダーメイド漢方の強みです。
なお、気功チェックや漢方の選薬はあくまでも東洋医学の枠組みに基づくものであり、西洋医学的な検査・診断を代替するものではありません。
ひと月後、じんわりと変化が届きはじめた
服用開始から約1か月が経った頃、「少しずつ変わってきた気がします」というご連絡をいただきました。
劇的な変化ではありません。
それでも、頭痛が出る頻度が少し減ってきた。
めまいが気にならない日が出てきた。
外出への緊張が、以前ほど強くなくなってきた
そういった、ささやかだけれど確かな変化でした。
夕方には動けなくなっていたのが、夕食の支度ができた日があった。
それだけで、ずいぶん違って見える。
そんなご様子が伝わってきました。
その後もメールでやり取りを続けながら経過を確認していきました。
連絡をいただくたびに、訴えのリストに挙がっていた不快な症状がひとつ、またひとつと減っていくのが分かりました。
最初は10枚分あった訴えが、半年後には1枚にまとまるくらいになってきました。
一点だけ、ご自身の判断で服用量を調整されていた時期がありました。
調子が良くなると「もう少し減らしても大丈夫かな」と思うのは自然な気持ちですが、体質改善の途中で量を変えると、その分回復のペースが緩やかになることがあります。
それでも、着実に体質は変わってきています。
漢方は焦らず、体質に合った分量を続けることで、より確かな変化につながります。
バラバラに見えた自律神経の不調が、ひとつの線でつながる
この方のケースを振り返ると、症状の多さと多様さに驚かれる方も多いかと思います。
頭痛・めまい・吐き気・スタミナ不足・外出への不安……それぞれが別々の科に振り分けられ、それぞれに薬が出ていた。
それでも楽にならなかった。
東洋医学の強みは、数値化できない不調・感情・ストレスの蓄積を、体全体のパターンとして読むことができる点にあります。
「五志の憂」という概念は、まさにそのような状態に名前と枠組みを与えてくれます。
バラバラに見えた症状が、ひとつの体の訴えとして一貫して理解できる。
そこに、前に進むための糸口が生まれます。
ただし、同じパターンであっても、変化の出方やペースには大きな個人差があります。
この方の経緯はあくまでも一例です。
すべての方に同じような経過をたどることを保証するものではありません。
一人で抱えなくていい
「検査では異常がないのに、体はこんなにつらい」
その言葉を、どうか一人で抱えていないでほしいと思います。
家族に伝わらない苦しさ、病院でたらい回しにされてきた疲れ、「また原因不明と言われるのでは」という諦め。
そういう感情ごと、ぜひ聞かせてください。
当薬局では、遠方の方に対しても気功チェックと漢方相談をオンラインで行っています。
全国どこからでも、LINEでご相談いただけます。
お手紙10枚分のつらさでも、まずは症状をかんたんにお知らせいただくだけで構いません。
どこへ行っても改善しなかった経緯があっても、遠慮なくお聞かせください。
少しずつ、一緒に出口を探していきましょう。
